学会の組織と委員会

地震時の斜面の不安定化メカニズムと設計法に関する研究委員会

設置期間:平成8年4月〜平成11年3月

連 絡 先 :地盤工学会 事務局
     TEL:03-3251-7661
     FAX:03-3251-7636
     E-mail:chosaki@jiban.or.jp

委員

活動内容

 地震時の切土・盛土斜面や自然斜面の不安定化メカニズムについては未解明な点が少なくなく、斜面 崩壊や地すべりの安定化のための対策工が合理的に設計されているとは言い難い現状にある。先の阪神・淡路大震災を鑑みると、地震時における斜面 の挙動を調べその不安定化メカニズムを把握することが、斜面崩壊や地すべりの安定化対策工の合理的設計法の確立のためには急務である。

 そこで、本研究委員会では常時および地震時における斜面の挙動および不安定化メカニズムを究明するとともに、斜面 崩壊や地すべりの安定化対策工の現状を整理してそれらの問題点や課題を明らかにする。

<各年度の活動方針>
  平成8年度:神戸の事例について現地検討によるメカニズムの検討と対象斜面 の絞り込み
平成9年度:対象斜面について各種の斜面安定解析の実施と破壊しなかった斜面 の検討
  平成10年度:震度法、動的解析、残留変形、復旧・対策工法の検討

項目A 平成8年度の活動成果
     第1回研究委員会
     第2回研究委員会
     第3回研究委員会
     第4回研究委員会

項目B 今後の活動方針


委 員

 委員長   沖村  孝    神戸大学都市安全研究センター
 副委員長  鵜飼 恵三  群馬大学工学部
 幹  事  落合 博貴  農林水産省林野庁森林総合研究所
 幹  事  植田 康宏  (株)阪神コンサルタンツ
 委  員  大塚  悟    長岡技術科学大学環境・建設系
       岡田 勝也  国士舘大学工学部
       粕田 金一  (株)熊谷組
       川邊  洋   三重大学生物資源学部
       規矩 大義  佐藤工業(株)
       久慈 雅栄  前田建設工業(株)
       楠見 晴重  関西大学工学部
       黒田 修一  (株)建設企画コンサルタント
       佐溝 昌彦  (財)鉄道総合技術研究所
       篠原 秀明  応用地質(株)
       白石 秀一  (株)日さく
       中川 信男  (株)ダイヤコンサルタント
       中里  薫    パシフィックコンサルタンツ(株)
       成田 国朝  愛知工業大学工学部
       福岡  浩    京都大学防災研究所
       門間 敬一  建設省土木研究所
       山上 拓男  徳島大学工学部
       山本  彰   (株)大林組
       横江 憲一  大成建設(株)
       吉丸 哲司  基礎地盤コンサルタンツ(株)



平成8年度の活動成果

 初年度(平成8年度)の活動状況と、委員会で話題提供として報告された各委員の研究成果 を紹介する。


第1回研究委員会(日時:平成8年5月9日、場所:地盤工学会会議室)

第1回委員会では、各委員の自己紹介を兼ねて本委員会の活動についての希望・意見を聞いた。各委員より出された本研究委員会で検討したい問題点は以下のようであった。

  • 人工斜面と自然斜面における崩壊の相違
  • 人工斜面の設計法において用いられる震度法と動的解析との関係
  • 震度法の適用限界
  • 地震による変形の評価について
  • 不飽和土の残留変形の定量的評価と把握
  • 地震時の粘性土の動的圧密と不等沈下
  • 崩壊直後に停止するものと流動するものの検討
  • 側方流動の検討
  • 不安定化メカニズムとしてのトップリング、ジョイントの破壊の検討
  • ハザードマップにつながる発生域と運動域の区分
  • 地震マグニチュードと地すべり崩壊の発生域の分布

次いで、各年度の活動方針を以下のように決定した。

平成8年度:神戸の事例について現地検討によるメカニズムの検討と対象斜面 の絞り込み
平成9年度:対象斜面について各種の斜面安定解析の実施と破壊しなかった斜面 の検討
平成10年度:震度法、動的解析、残留変形、復旧・対策工法の検討

委員会活動はインターネット上にホームページ(http://landslide.dpri.kyoto-u.ac.jp/jisinjiban.html)を開設し、公開することとした。

最後に、沖村委員長から以下のような話題提供があった。
テーマ: 兵庫県南部地震による斜面・宅地地盤災害の概要
概 要: 六甲山系に発生した斜面崩壊の分布、発生位置の地形、崩壊方位、崩壊源の状況、崩土の状況の概要が報告された。また、六甲山系山麓に造成された宅地地盤の被災状況について報告があった。


第2回研究委員会(日時:平成8年7月17日、場所:北見工業大学)

第2回研究委員会では、楠見委員より以下のような話題提供があった。

テーマ: 兵庫県南部地震による鉄筋コンクリート建築物の特異な破壊現象
概 要: 兵庫県南部地震によって被害を受けた兵庫県立西宮高校の鉄筋コンクリート校舎で、地盤調査・基礎の掘削調査を行った結果 と、被害原因に関する検討結果についての報告がなされた。


第3回研究委員会(見学会、日時:平成8年10月14日〜10月15日、場所:神戸〜淡路島)

第3回委員会は、兵庫県南部地震による斜面の崩壊状況などを視察するために神戸、淡路島方面 の見学会を実施した。日程および見学場所は以下の通りである。

 10月14日(建設省近畿地方建設局六甲砂防工事事務所)
      1) 住吉川沿いの宅地法面の復旧工事
      2) 五助谷堰堤上流側の斜面崩壊現場
      3) メリケンパーク護岸の崩壊と復旧状況

 10月15日(本州四国連絡橋公団洲本工事事務所)
      1) 枯木切土の法面
      2) 室津PAの法面
      3) 石の寝屋切土の長大法面
      4) 淡路IC、SAの法面
      5) 野島断層


第4回研究委員会(日時:平成8年12月17日〜12月18日、場所:京都大学防災研究所)

本委員会は京都大学防災研究所共同研究研究集会と併せて開催した。話題提供は以下の通 りである。

テーマ: 地震時斜面の有限要素法解析、粘土地盤の全応力解析と 砂地盤の有効応力解析(鵜飼委員)
概 要: まず、全応力解析では二次元、三次元の微小変形理論による解析の紹介と 二次元の大変形理論(有限変形理論)による解析の紹介があった。そこでは 今後の設計に大変形理論を考慮する必要性が強調された。一方、有効応力解 析では一次元と水没斜面の二次元解析の紹介があり、液状化現象による水圧 の発生と消散の解析手法が提案され、適切な構成式の利用が重要であること が指摘された。

テーマ: 降雨時における斜面の安定性に及ぼす地盤の浸透特性の影響 (吉丸委員)
概 要: 有限要素法に基づく数値解析手法で、降雨時における斜面の安定性に 及ぼす地盤の不飽和領域での浸透特性の影響が検討された。その結果、 地盤の不飽和領域での浸透特性は斜面の安定上極めて重要であることが 指摘された。

テーマ: 地震時地すべり発生予測と危険斜面の判定(京都大学防災研究所 佐々教授、特別 講演)
概 要: 兵庫県南部地震により発生した仁川百合野町の崩壊について、大型リング せん断試験を用いた解析結果が報告され、地下水と粒子破砕に起因する 高速地すべりの機構が紹介された。また将来的には、斜面内にすべり面 と なりうる飽和した滞水層があり、すべり面においては粒子破砕等により 過剰間隙水圧が発生しやすいような場合は、地震時に崩土が大きく流動 する可能性があることが指摘された。

テーマ: 過剰間隙水圧の発生と地震時斜面安定解析(福岡委員)
概 要: 地震時に発生する過剰間隙水圧の増分が、スケンプトン流の考え方で過剰 間隙水圧係数を導入することにより評価された。その結果、ダイレイ タンシーと飽和度は間隙水圧の発生に大きな影響を及ぼすことが報告 された。

テーマ: 鉄道盛土の地震災害と対策(岡田委員)
概 要: 1)阪神・淡路大震災と過去の地震による鉄道被害の比較、2)盛土構造物の 被害と対策、3)橋台裏盛土の被害と対策、に関する事例と解析結果、およ び過去の地震による被害での様々な復旧工法が紹介された。

テーマ: GISを用いた斜面防災マップの作成(中里委員)
概 要: 埼玉県のある市を対象として、地すべり・斜面崩壊の危険性のある斜面 を 抽出する目的で、傾斜、地質、断層・褶曲、流れ盤等の要因評価による 結果が示された。またGISを利用する有効性も示された。

降雨と地震から危険斜面を守る地盤工学に関するシンポジウム(降雨による地盤災害に関する研究委員会との共催、日時:平成9年4月30日、5月1日、場所:国士舘大学)

 平成8年度の各委員の研究成果および委員会活動の中間報告を行った。


今後の活動方針

これまでの話題提供などにもとづき、今年度は次の3つのテーマに絞って研究を進めていくこととした。
  • 事例解析   :地震動による崩壊事例の収集と要因分析、
  • 数値・力学解析:解析的アプローチに基づく不安定化メカニズムの解明、
  • 対策工    :応急対策と恒久対策における設計法