令和4年度地盤工学会賞受賞者

◆令和4年度地盤工学会賞受賞者の決定◆

令和4年度地盤工学会賞受賞者が、令和5年3月20日の理事会において決定いたしました。なお、学会賞は6月8日の第65回通常総会で授与いたします。

令和4年度地盤工学会賞受賞者の決定(PDF 368KB)
(注:受賞者の所属は応募当時,掲載は応募順)

【技術賞部門】

賞の名称 受賞業績名 受賞者
技術業績賞 国内初となる災害現場における砂防ソイルセメント堰堤の自動化施工(紀伊山系直轄砂防事業 赤谷 3 号砂防堰堤工事) 国土交通省 近畿地方整備局 紀伊山系砂防事務所・大規模土砂災害対策技術センター
鹿島建設(株)関西支店赤谷工事事務所
●授賞理由:本業績は,平成23年台風12号により奈良県五條市で発生した大規模斜面深層崩壊で生じた河道閉塞に対する砂防工事を無人化・自動化施工にて実現した先進事例である。当該現場は,大規模崩壊以降でも斜面の再崩壊が繰り返し発生する条件下にあり,重機を遠隔操作する無人化施工が必要とされた。土石流を防止する砂防堰堤工事を無人化施工に対応できるよう堰堤構造とし,堤体の一部を成すソイルセメント並びにコンクリートブロック施工のための自動化施工技術を新規開発するとともに,安全性・品質・施工効率の向上も実現した。この事業は土砂災害復旧の技術発展に大きく寄与する先駆的な功績であり,社会貢献度が極めて高く,技術業績賞としてふさわしいと認められた。
技術業績賞 開削に伴う環境影響負荷を最小限に抑制しつつ工程短縮も実現した地下鉄営業線新駅の建設(日比谷線虎ノ門新駅(仮称)設置に伴う土木工事) 東京地下鉄(株)
鹿島・大林建設工事共同企業体
●授賞理由:本業績は,都市再開発エリアの中心域において重要国道直下かつ営業中地下鉄線や地下埋設物を多数抱えるといった条件の下で,3つの地盤施工技術(気泡を用いた地中連続壁施工,高品質地盤改良体による既設地下鉄線躯体の支持,地下水位の精密な制御による沈下抑制)を適用して地下鉄線や近接構造物への安全を確保した上で周辺環境への負荷低減とともに短工期施工を実現した事例である。その工事内容は都市再生やインフラの維持管理・更新技術の発展に寄与するものであり,環境負荷低減や工程短縮に配慮された一連の地盤工学的な要素技術を活用した本事例の業績は高く評価できるものである。以上より,技術業績賞としてふさわしいと認められた。
技術開発賞 機械式掘削方式による大口径多段拡大場所打ち杭の開発 渡邊 徹(大成建設(株)
堀井 良浩(大成建設(株)
濱 健太郎(大成建設(株)
秋月 通孝(大成建設(株)
久保 豊(システム計測(株)
中西 義隆(システム計測(株)
●授賞理由:本業績は,建物の高層化および地震外力の増加に対する基礎杭への対応として,ねじり回転機構を取り入れたコンパクトな大口径拡大掘削機の開発を行い,多段杭で国内最大の拡大径5.5mを実現するとともに,杭本数や杭長の低減,掘削土量・コンクリート量の抑制,施工期間の短縮などを可能としたものである。地中での拡大開閉に多段杭で初めて油圧ジャッキを使用しない機械式掘削方式を開発することで拡大掘削装置の軽量化を図り,使用する掘削重機の小型化により,高層建物のみならず狭隘な敷地での中規模建物に対する杭施工も可能とした,経済性,実務への応用において高く評価できる社会的ニーズの高い技術開発となっている。以上より,技術開発賞としてふさわしいと認められた。

 

【研究・論文賞部門】

賞の名称 受賞業績名 受賞者

論文賞

(和文部門)

高透水性基礎地盤上の河川堤防の浸透破壊に対する効果的な基盤排水工の検討 小高 猛司(名城大学理工学部)
李 圭太(日本工営(株)
中村 宏樹((株)建設技術研究所)
山下 隼史(名城大学大学院)
●授賞理由:本論文は,パイピングに起因して発生する高透水性基礎地盤上の河川堤防の浸透破壊に対して,模型実験を駆使することにより,堤体変状抑止に対して最も効果的な基盤排水工の設置位置が堤体内の法尻部であることを発見している。さらに,二次元非定常浸透流解析も実施し,大規模な裏法すべりのトリガーとなる法先での小規模すべりを抑制する点で,堤体法尻部に基盤排水工を設置することが最も効果的であることも確認している。本論文で示されている数々の知見の学術的な新規性は高く,また,基盤排水工のより効果的な使い方を合理的に示した点においても河川管理実務上における有用性も高い。視覚情報として,論文中で写真として示したすべての模型実験の動画をYouTubeで公開し,それらの動画リンク集を参考文献として挙げる試みもなされている。以上より,論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。

論文賞

(和文部門)

路面下空洞の生成・拡大メカニズムと陥没危険度の評価

桑野 玲子(東京大学生産技術研究所)
大原 勇(鉄道総合技術研究所構造物技術研究部)

●授賞理由:本論文は,路面下の空洞が進展して地表の崩落に至る模型実験により,組み立てた陥没危険度評価指標を国道における実データと照合して検証している。そして,理想的な室内模型地盤条件で構築した考察が多様な実地盤条件に適用可能であることを示すことにより,本研究の完成度を高めている。特筆すべき点は,最終的に実務で取得可能なパラメータのみで陥没危険度を評価していることから実務に適用可能である点である。社会問題になりつつある下水道の老朽化に起因する道路陥没現象を対象に,精緻な実験と分析を行い,実務で慣用的に用いられている空洞判定基準に科学的な根拠を付与した点が評価に値する。以上より本業績は,完成度が高く,実用的な内容であることから,論文賞(和文部門)にふさわしいと認められた。

論文賞

(和文部門)

トンネル施工時の湧水量の予測手法の拡張と実トンネルへの適用 久保田 恭行((株)熊谷組)
森 守正((株)竹中土木)
安田 亨(パシフィックコンサルタンツ(株)
小山 倫史(関西大学)
西山 哲(岡山大学)
●授賞理由:本論文は,予測した坑口湧水量を効率的に施工に反映するため,湧水の鉛直浸透と切羽前方の地下水位低下の影響を考慮できる予測手法を提案したものである。既往の物理モデルを拡張したことにより,地質の変化点であっても坑口湧水量が精度良く予測されている。また,複雑な収束計算がなくても,解析モデルの透水係数が坑口湧水量の観測値を反映して修正できている。提案手法は,岩盤工学的な物性がほぼ一様で湧水量の小さい地山の施工時に用いることできる。湧水量が簡易に精度良く予測されるので,掘削工法の選定や地下水対策の検討など,実務での応用が期待される成果として高く評価される。以上より、論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。

論文賞

(英文部門)

Centrifuge model tests on large-diameter monopiles in dense sand subjected to two-way lateral cyclic loading in short-term 高橋 章浩(東京工業大学環境・社会理工学院)
大村 直哉(電源開発(株)原子力技術部原子力土木室)
小林 孝彰(鹿島建設(株)土木設計本部解析技術部)
蒲田 幸穂(マッキンゼー・アンド・カンパニージャパン)
稲垣 聡(鹿島建設(株)土木設計本部構造設計部)
●授賞理由:本論文は,比較的密な砂地盤に打設された大口径モノパイルの性能評価に関する研究である。暴風等により励起された風車振動を想定し,水平繰返し載荷時の抵抗機構を調査する遠心力場模型実験を実施した。また実験結果に基づき,繰返し載荷の変位振幅や載荷振動数に応じた地盤抵抗の低下と基礎底面抵抗寄与分を定量的に評価し,杭頭に水平力・モーメントを受ける剛基礎応答の解析解を導出した。本研究の成果は, 載荷試験や基礎支持性状のモニタリング等への活用を通して,巨大化する洋上風力発電風車基礎の性能評価を可能とし,再生可能エネルギー推進への貢献が期待される。以上より,論文賞(英文部門)にふさわしいと認められた。

論文賞

(英文部門)

Arbitrary particle domain interpolation method and application to problems of geomaterial deformation 桐山 貴俊(清水建設(株)技術研究所)
肥後 陽介(京都大学大学院)
●授賞理由:本論文は,地盤変形問題への適用が進む粒子法について,その利点と粒子法に比べて計算コストが低く境界も明確に定義できる要素法の利点を組み合わせ,粒子-要素連成法という新規的な解析技術を提案し,大変形を伴う地盤変形解析への高い適用性を示したものである。本論文は,粒子-要素間の煩雑な取り扱いが不要なシームレスな連成手法の確立,粒子領域積分手法の開発によって計算負荷の大幅な軽減が実現されており,数値解析全般の学術領域においてその貢献度が高く,さらに実務での利用が期待される成果として高く評価される。以上より,論文賞(英文部門)としてふさわしいと認められた。

論文賞

(英文部門)

Influence of longitudinal structural connectivity on seismic performance of three-hinged precast arch culverts 宮﨑 祐輔(京都大学大学院工学研究科)
澤村 康生(京都大学大学院工学研究科)
岸田 潔(京都大学大学院工学研究科)
木村 亮(京都大学大学院工学研究科)
●授賞理由:本論文は、カルバート縦断方向の連結条件が3ヒンジ式プレキャストアーチカルバートの地震時性能に与える影響を解析的に評価する手法を開発したものである。著者らは、東北太平洋沖地震によって供用性を喪失した、多数の同構造の被害機構を解明するため、3ヒンジ式アーチを含む盛土を3次元有限要素法によりモデル化し、盛土部の弾塑性挙動、土-構造物の相互作用、地震時におけるアーチ部材間の繰り返し接触問題を同時に考慮可能な計算手法により、カルバート縦断方向の連結条件をパラメータとした動的解析を行った。同解析に基づいたアーチ部材の変状事例の三次元的な評価、既往地震におけるアーチ部材の損傷メカニズムの解明、旧型3ヒンジ式アーチにおける各種構造条件の検討などは、いずれも学術的に極めて優れたものである。以上より、論文賞(英文部門)としてふさわしいと認められた。
研究奨励賞 高レベル放射性廃棄物の地層処分に資するベントナイト系緩衝材の膨潤・透水特性における膠結作用に伴う超長期的変化に関する研究 伊藤 大知(早稲田大学創造理工学部社会環境工学科)
●授賞理由:本業績は,地層処分におけるバリア材の一つである,ベントナイト系緩衝材の膨潤特性や透水特性に関して,長期的な変質現象である膠結作用に伴う特性変化の定量評価方法を提案したものである。実験等より,乾燥密度と拘束圧の間に一義的な関係があることを見出し,緩衝材が膠結作用を受けた場合においても一方から他方の値を予想可能であることを示し,さらに,緩衝材の膠結作用に伴う劣化を考慮した自己修復性の評価手法を提案した。これらの成果は,材料の長期的な変質に伴う特性変化の定量的な評価手法を体系化したものであり,将来的な性能変化の把握や,定量性を持った供用期間の設定が可能になると考えられる。以上より,研究奨励賞としてふさわしいと認められた。
研究奨励賞 Hydro-mechanical response of volcanic ash subjected to internal erosion Sanjei Chitravel(東京大学大学院工学系研究科)
●授賞理由:本業績は,火山灰質土を対象に,細粒分の抜け出しに伴う土の力学特性の変化を実験的に検討したものである。三軸試験装置内で間隙水を循環させることで内部侵食過程を模擬し,細粒分流出量を濁度計で定量的に把握すると同時に,せん断剛性率の低下特性,最大強度及び残留強度の変化,液状化強度の変化などが調べられた。一連の成果は,受賞候補対象業績となる論文2編にまとめられており,内部浸食による土の力学特性の変化を理解する上で注目に値する研究業績である。また,受賞候補対象業績の掲載後も,卓越した研究成果を継続して発表しており,今後の飛躍的な活躍が期待される研究者である。以上より,研究奨励賞としてふさわしいと認められた。
研究奨励賞 土-水-化学物質の相互作用に基づく吸着層工法の性能評価に関する研究 加藤 智大(京都大学大学院地球環境学堂)
●授賞理由:本業績は,自然由来の重金属等を含む環境汚染を抑制する吸着層工法を対象として,地盤内で生じる水和反応や吸脱着反応を土―水-化学物質の相互作用の観点から解き明かし,応用への展開を図る一連の研究成果である。その中では,従前の物質移動予測手法の適用限界を実験事実から明らかにしたうえで,吸着層に固定化される汚染物質量と溶出の継続時間を重要な指標に位置付け,吸着層の性能評価及び設計に関わる方法論を示した。これらは,重金属等の特性と吸着層の性能を同時に評価できる斬新かつ有用な成果であり,応用面からも合理的で環境負荷の低い建設発生土の有効活用に必要不可欠なものとなる。以上より,研究奨励賞としてふさわしいと認められた。