会長挨拶2020

会長就任のご挨拶

2020年6月

第36代会長
第36代会長  三村  衛
     京都大学

本年6月5日の総会において第36代会長を拝命し,大谷順前会長の後を引き継いて2022年6月までの2年間その職責を務めることになりました。地盤工学会は1949年に日本土質基礎工学委員会として発会して以来71年の歴史を刻んできた歴史と伝統のある学会であり,歴代会長とその錚々たる業績を顧みて改めて身の引き締まる思いでございます。

 私は1981年に京都大学工学部を卒業していますが,地盤工学会(当時は土質工学会)に同年に入会し,以来約40年にわたって学会に色々な場を与えられ,育てていただきました。この間,バブル期とその崩壊からの失われた20年と大きく価値観が揺れ動いた時代を経てきましたが,昨冬からの新型コロナウイルスの蔓延と感染拡大はそれらと比較にならないくらいの変化を我々に強いています。そもそも本年総会はZOOM開催となりましたし,正副会長会議や理事会もすべて遠隔会議となっています。また,大変残念なことに,第55回地盤工学研究発表会(京都大会)は中止のやむなきに至り,会員の皆様には多大のご迷惑をおかけすることになってしまいました。こうした事態は長い研究発表会の歴史の中で空前絶後であり,地盤工学の先端的な学術,技術の発表と議論の場を奪われたことは痛恨の極みであります。その中で,特別講演をはじめ,学会賞受賞者講演,DSセッション,令和元年台風19号および10月末豪雨災害に関する最終報告会など可能なものについてはウェブ配信することで,会員の皆様には何とか一部でも情報提供をと学会執行部,大会実行委員会にご尽力をいただきました。現段階ではこれといった対抗措置のないウイルス相手のことであり,今後すぐに従前の形にとは言えない状況ではありますが,同じ空間で会員が集い,議論を戦わせる場を是非復活させたいと考えております。一方で,非対面型討議システムが機能することも共通の理解を得てきており,学会としてZOOMのライセンスを購入し,各支部にもお渡しして効率的かつ経済的な学会運営を図るという方針で動き出しております。皆さんが一カ所に集って行う事業と,リモート・分散型で行う事業のメリハリをつけた運営を志向していくことになろうかと思います。

 会長就任にあたり,学術・技術の先駆的知の集積と発信を学会のミッションの第一に掲げたいと思います。地盤工学会は,近代社会基盤であるインフラストラクチャを支える大地を取り扱う研究・技術専門家集団で構成されており,最先端の学術的知見を研究発表会,講座,セミナー,展示会等を通して社会に発信するとともに,品質の高い地盤関連技術情報の収集と提供を遅滞なく実施する責務を負っています。大谷前会長のリーダーシップの下,フルオープンアクセス化されたSoils and Foundationsは,質の高い先駆的論文を世に問うことによって世界に冠たるジャーナルとしての地位を今後も持ち続ける必要があります。幸い,編集委員会のメンバーには優秀な会員があたっていただいており,海外査読者の積極的な登用など国際ジャーナルとしての品格を備えた論文集として存在感を示し続けていくように全力でサポートいたします。また地盤工学ジャーナルへの和文論文も年々質的向上が認められ,学術・技術の発信に大きく貢献していただいているところでありますが,当初意識しておりました実務的な論文の投稿と掲載を積極的に喚起する努力をしてまいります。地盤工学会誌の完全電子化についても前執行部の大きな功績で,我々世代以下の会員にとっては至極当然の成り行きであろうと拝察します。先輩諸氏におかれましては若干のご不便をおかけすることになるかもしれませんが,ご高配を賜れば幸いと存じます。

 次に,学会の重要なミッションとして,地盤工学にかかわる研究と技術の評価と顕彰があげられます。地盤工学会が,日々創出される先進的学術研究や技術開発の意義と将来性を正当に評価し,顕彰する責務を担う組織であることを踏まえ,表彰委員会をはじめとする,学術,技術の評価を重視する学会運営を進めます。この認識が,地盤工学会が高い存在価値を保持し続けることに繋がるという認識のもと,会員が誇りを持って活動することができる学会として永く繁栄するように努めてまいります。関連して,学会賞のうち,技術開発にかかわる環境賞と技術賞については例年研究発表会の受賞者セッションにおいて受賞内容のご報告をしていただいておりましたが,持ち時間が短く,内容の濃いコンテンツを十分にご説明いただけないという問題がございました。本年は研究発表会の一部をウェブ配信するという特例的な事態となりましたが,環境賞と技術賞の受賞内容につきましては,堀越副会長のご尽力もあり,9月に半日の枠を設けて実施するWeb受賞講演会においてじっくりとご説明頂く予定です。地盤工学の新技術の開発や地盤関連問題への適用は実学としての工学の根幹をなすものであり,会員の皆様に十分ご理解をいただける場を提供することは,評価と顕彰を掲げる上で至極当然の方向でありましょう。ご好評であれば次年度以降も継続的に実施することも考えており,コロナ禍を逆手にとって新しい形を試行してみます。

 第三には,地盤防災に対する取り組みの強化と情報発信を挙げたいと思います。地盤工学会では,豪雨に起因する河川増水に伴う破堤,斜面崩壊,土石流災害,また頻発する地震による地盤災害に対し,災害連絡会議を組織して対応しております。この体制を継続するとともに,社会が求めるニーズを見極め,迅速に発信すべき速報的情報と,学会として精査して発信する情報を戦略的に発信するとともに,地盤情報の共有化など,国・地域防災にとって必要な施策に対しては関連他学会と協働して政・官に向けて効果的な働きかけを行ってまいります。昨年度に出された地盤工学会からの提言はその好例であり,地盤工学のエキスパート集団としての存在価値を大いに示していただいたものと高く評価しております。

 最後に,市場原理に馴染まないが公益性が高く,専門家集団としての学会であればこそ貢献できるプロジェクトへの主体的,積極的な取り組みを推進いたします。2013年に発足した地盤品質判定士制度を中核とした技術者継続教育の充実は,現在から将来にわたる我が国の社会インフラ整備,維持管理に必須であり,宅地トラブルへの助言などを含め,公益性の高い事業であることから,社会貢献事業の核として活動を推進してまいります。

 以上,駄文を弄してまいりましたが,こうした取り組みは,岡村未対,堀越研一,渦岡良介の三副会長はじめ,理事,監事,学会員の皆様,さらには学会事務局スタッフのご協力とご支援なくしては実現できるものではありません。今後とも何卒温かく,厳しいご指導とご鞭撻をお願いし,会長就任のご挨拶に代えさせていただきます。