令和5年度地盤工学会賞受賞者

◆令和5年度地盤工学会賞受賞者の決定◆

令和5年度地盤工学会賞受賞者が、令和6年3月18日の理事会において決定いたしました。なお、6月5日の第66回通常総会で学会賞の表彰をいたします。

令和5年度地盤工学会賞受賞者の決定(PDF 270KB)
(注:受賞者の所属は応募当時,掲載は応募順)

【技術賞部門】

賞の名称 受賞業績名 受賞者
技術業績賞 緊急治水対策工事におけるICT施工技術を駆使した一気通貫な合理化施工(小田川付替え南山掘削他工事) 国土交通省 中国地方整備局 高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所
鹿島・大本・荒木特定建設工事共同企業体
●授賞理由:本業績は、甚大な被害をもたらした小田川の河川付替えによる河川氾濫リスク低減事業に対して、最新のICT 施工管理技術を用いた計画と施工、それに加えて、のり面の安定や緑化といった維持管理までを含めた合理化施工に取り組んだものである。緊急性を要する事業に対して、早期かつ確実な治水対策事業を推進した本事業は、近年の河川治水において地盤工学が果たすべき役割や期待が拡大する中で、その社会的貢献度は高く評価できるものである。以上より、技術業績賞としてふさわしいと認められた。
技術業績賞 市街地における大規模盛土施工が及ぼす変位の影響を最小限に抑制した築堤施工
(旧北上川河口部復旧復興事業における引き込み対策を併用した堤防整備)
風間 基樹(東北大学)
国土交通省国土技術政策総合研究所 河川研究部 河川研究室
国立研究開発法人土木研究所 地質・地盤研究グループ
国土交通省 東北地方整備局 北上川下流河川事務所
川崎地質(株)
●授賞理由:本業績は、大規模盛土施工の際に、周辺構造物への影響を極力抑制するため、まず事前の調査・設計段階において盛土の沈下量や周辺地盤の沈下・水平変位量の予測を、圧密試験及び解析により的確かつ正確に実施したこと、そして試験施工や実施工段階においても、動態観測の実施等で影響を最小限に抑制しながら施工を進めた点が大いに評価できる。沈下抑制を確保しながら最適な杭配列を決定するなど事業費削減にも寄与しており、社会貢献度は大きく、また今後の同様な案件に対し有意義な考察を示すものである。以上より、技術業績賞としてふさわしいと認められた。
技術開発賞 AI画像粒度モニタリングシステムを用いたCSG材表面水量管理システムの開発 藤崎 勝利(鹿島建設(株))
岡本 道孝(鹿島建設(株))
小林 弘明(鹿島建設(株))
田中 恵祐(鹿島建設(株))
桝谷 麻衣(鹿島建設(株))
●授賞理由:本業績は、砂礫材料、セメント、水を混合するCSG材の粒度・含水率・表面水量を最先端の先進技術を活用して自動計測し、品質管理の高精度化と省力化を実現したものである。AI技術の組み込みにより画像撮影場所の自由度が飛躍的に向上し、AI画像粒度モニタリングシステムと近赤外線水分計による含水率計測技術を複合させることにより、製造時のCSG材の単位水量制御が高精度化した。従来の室内試験や室内試験結果から表面水量を算出するプロセスが無人化され、労務費が削減できること、土構造物の建設における地盤調査、品質管理業務の省力化にも応用できることなど、社会的ニーズの高い技術開発として高く評価できるものである。以上より、技術開発賞としてふさわしいと認められた。
技術開発賞 原位置固化改良地盤を対象とした多点針貫入試験による強度評価手法の開発 小林 真貴子(大成建設(株))
石井 裕泰(大成建設(株))
藤原 斉郁(大成建設(株))
●授賞理由:本業績は、軟弱地盤の対策工事における改良地盤を対象として提案された原位置品質評価技術である。その大きな特徴は、新たに開発した全自動試験装置を改良地盤の孔内に挿入し、孔壁に対して針貫入試験を数多く実施することで効率的かつ詳細に改良地盤全体の強度特性の分布を推定できることにある。針貫入試験結果から強度を推定する手法として、針貫入勾配のばらつきに着目した一軸圧縮強さの評価方法を新たに提案している。本手法を適用することにより、改良地盤の適切な性能評価による安全性向上や効率化など地盤改良工事における品質管理の高度化に寄与できるものと考えられる。以上より、技術開発賞としてふさわしいと認められた。

 

【研究・論文賞部門】

賞の名称 受賞業績名 受賞者

論文賞

(和文部門)

大阪・神戸地域の浅層地盤モデルを用いた地下水位低下による地盤沈下量と液状化対策効果の予測 春日井 麻里
大島 昭彦(大阪公立大学)
山口 智也(パシフィックコンサルタンツ(株))
●授賞理由:本論文は「関西圏地盤情報データベース」およびボーリングの調査結果から「250m メッシュ浅層地盤モデル」を作成し、このモデルを利用して、沖積砂層の地下水位を低下させた際の液状化対策の効果と地盤沈下量を予測し、沖積砂層の下に沖積粘土層が厚く堆積している大阪・神戸地域における地下水位低下工法の有用性を検討したものである。既存建築物の液状化対策として地下水位低下工法の適用が増えているが、粘性土層が厚く堆積している地域では地盤沈下量を評価することが重要となる。地下水位低下工法による沖積粘土層の地盤沈下量と沖積砂層の液状化対策効果を同時に推定する手法を示した本論文は、学術的かつ工学的な貢献度が極めて大きいと評価される。以上より、本論文は論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。

論文賞

(和文部門)

半世紀にわたる泥岩切土法面の風化過程と法面安定への影響

永田 政司(中日本高速道路(株))
Sharmily Bhowmik(横浜国立大学)
菊本 統(横浜国立大学)
藤原 優(西日本高速道路(株))
佐藤 尚弘(明治コンサルタント(株))

●授賞理由:本論文は、泥岩主体に構成された高速道路の切土法面を対象として、切土掘削から半世紀にわたる風化の進行プロセスを現地調査と室内試験、最新の分析技術を駆使して地盤の風化現象を解明し、切土法面の長期的な安定性を評価する手法を提案したものである。切土法面のような新鮮な岩盤が露出してからの一連の風化過程を長期にわたって調査した事例が乏しく、切土法面における風化現象の解明と保全対策の合理化は当該研究分野にとって喫緊の課題といえる。本論文では、風化現象が法面安定性に及ぼす影響を詳細に論じており、現象の解明と切土法面の長期保全の合理化の両面で顕著な成果を挙げている。以上より、本論文は論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。

論文賞

(和文部門)

道路構造及び空洞特性を考慮した陥没危険度評価と合理的路面下空洞対策 ―実物大試験道路における空洞挙動の解明― 桑野 玲子(東京大学生産技術研究所)
桑野 二郎(埼玉大学)
瀬良 良子(ジオ・サーチ(株))
井原 務((株)NIPPO)
小堺 規行(住友大阪セメント(株))
●授賞理由:本論文は、都市部で頻発する路面下空洞に起因する道路陥没問題について、既存の空洞データの分析、室内模型実験、数値解析、フィールド試験および現道における空洞モニタリング等を実施してその解決策を提示している。具体的には、まず、空洞の生成・拡大の実態を分析し、そのメカニズムを明らかにした。これらの成果に基づき、空洞ポテンシャルマップおよび陥没危険度評価指標を提案し、それらを活用することで空洞補修の優先度判定や効率的な空洞対策を提案している。このように一連の研究成果は、学術的な貢献に加えて、道路インフラ実務に携わる技術者にも有益な知見を提供している。以上より,論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。

論文賞

(英文部門)

Effects of specimen thickness on apparent swelling pressure evolution of compacted bentonite 王 海龍(早稲田大学)
阮 坤林(早稲田大学)
原崎 智(パシフィックコンサルタンツ(株))
小峯 秀雄(早稲田大学)
●授賞理由:本論文は、わずか2mmの締固めベントナイト供試体に対する膨潤圧試験の実験技術を提示している。締固めベントナイトの膨潤圧試験において、平衡膨潤圧に代表される締固めベントナイトの膨潤特性を供試体厚さに依らず、かつ、20時間程度で取得できることを実証している。また、ばらつきが著しく小さい実験結果を修めることで平衡膨潤圧と乾燥密度が供試体の厚さに依存しない物理量であることを証明している。このように本業績は、短時間で高精度な実験結果を得られる体系的実験手法を開発し、締固めベントナイトの膨潤特性をより深く理解することに寄与する研究成果が収められている。以上より、論文賞(英文部門)にふさわしいと認められた。

論文賞

(英文部門)

Model testing study on engineering performances of circular helicoid piles during the whole process of installation and bearing in sandy soil Kunpeng Wang(Dalian Maritime University)
Chunyi Cui(Dalian Maritime University)
Jingyu Ren(Dalian Maritime University)
安福 規之(九州大学)
Guangli Xu(China University of Geosciences)
●授賞理由:本論文は、円形らせんパイル(CH杭)の施工過程、荷重及び支持状態を再現する模型実験装置の開発と実験方法の提案を行い、90回に及ぶ実験によりCH 杭の種類、設置方法、地盤条件を変えて、その力学的性能を入念に評価した成果をまとめたものである。CH杭は、日本と韓国で、この10年間に開発された新しい特殊杭であり、その性能と経済性から幅広い対象に適用されるものの、その利用は上記二国に限られる現状がある。CH杭と地盤の相互作用は、平面ひずみや軸対称の2次元問題に帰着できず、3次元問題として扱う必要がある中で、本研究はCH杭の性能に対する科学的な根拠を精緻な実験結果を通して提供する。この成果は、地盤力学の深化とCH 杭の普及に寄与する。以上より、論文賞(英文部門)にふさわしいと認められた。

論文賞

(英文部門)

Water and soil particle movements in unsaturated bentonite with constrained and free swelling boundaries 王 海龍(早稲田大学)
山本 有雅(応用地質(株))
京川 裕之(名古屋工業大学)
伊藤 大知(早稲田大学)
小峯 秀雄(早稲田大学)
●授賞理由:本論文は、高レベル放射性廃棄物の地層処分におけるベントナイト緩衝材を含む多重バリアシステムについて、建設時に生じるバリア間の隙間を砂またはベントナイトで充填するか否かに関して、緩衝材の吸水過程における水分および土粒子の移動、ならびに、隙間の有無が膨潤特性に及ぼす影響とその定量的評価を課題とした実験および数値解析による研究成果である。実験では変形拘束条件を変えたベントナイト緩衝材の吸水試験を行い、水分移動に及ぼす乾燥密度の影響と水分と土粒子の移動挙動について検討している。高レベル放射性廃棄物の処分という重要な社会的課題に対し、ベントナイトの膨潤過程における水分・土粒子の移動挙動について詳細に検討しており、社会的ニーズに真摯に対応した研究としてその価値は高いと評価できる。以上より、論文賞(英文部門)にふさわしいと認められた。
研究奨励賞 Exploring anisotropy in shear wave velocity and shear stiffness of granular materials by novel experimental approach 劉 峻銘(東京大学)
●授賞理由:本業績は、立方体の供試体を楕円体粒子の長軸方向が一方向に向くように作製し、プレート型弾性波計測センサーを用いてせん断波速度を計測した結果、振動方向(粒子の動く方向)ではなく、粒子の長軸方向と伝播方向が一致した場合にVsが最大となることを示すとともに、地盤材料の真の剛性異方性を評価する場合、三軸試験のような上下端面の剛壁境界と水平メンブレン境界の組み合わせは推奨されず、同等な境界条件とすべきであることを示した。さらに、ディスクトランスデューサーを開発し、せん断波の伝播方向を一定に保ちつつ、振動方向を10 度刻みで回転させた場合の波動特性を調べた。以上より、研究奨励賞としてふさわしいと認められた。
研究奨励賞 巨大地震時の地震時主働土圧発現特性に及ぼす擁壁背面地盤の粘着力の影響と土圧算定式に関する研究 尾﨑 匠(東日本旅客鉄道(株))
●授賞理由:本業績は、巨大地震時でも適用可能な擁壁背面地盤の粘着力が地震時主働土圧に及ぼす影響メカニズムを解明し、土圧算定式を提案したものである。粘着力が地震時土圧発現特性に及ぼす影響の評価は、地盤工学において古典的な課題ではあるが、実験と比較して妥当性を検証している研究は少なく、さらに巨大地震への適用を研究した事例は世界的にも極めて少ない。これに対し本研究では、遠心模型実験から擁壁背面地盤の粘着力が地震時主働土圧に及ぼす影響メカニズムを解明するとともに、実験結果や既往の土圧算定法との比較により妥当性が立証された土圧算定法を提案している。これらの一連の研究は、第20回国際地盤工学会議や地盤工学ジャーナルで発表し高い評価を得ており、地盤工学への貢献と今後の発展性の観点から、本業績は研究奨励賞としてふさわしいと認められた。